かれこれ今日で、この店に来るのも7、8回目となる。
住んでいるマンションの近くに店ができて、半年経たないくらいなので、まずまずのペースだ。
それほどに、ここのまぜそばは美味しい。
店の看板メニューは、別にあるのだが、個人的には二番人気のカレーまぜそばが絶品なのだ。
味が美味しいことに加え、まぜそば単体だと炭水化物の塊という後ろめたさがあるが、カレーまぜそばには一口サイズにカットした鶏肉が散りばめられていて、どことなく健康にいい食事をしている気持ちにさせてくれる。
近所に家系らーめんの店もあるが、ここができてから一回も行かなくなってしまった。
今日も今日とて、お気に入りのカレーまぜそばの食券を買う。
ついでに、追いチキンの食券も買う。
まぜそば950円、追いチキン200円で、占めて1150円なり。
近所の家系ラーメンが一杯700円であることを考えると、安くはないが、もうこの店で1000円以上を使うことはルーティンとなってしまった。
まして、いつも200円のデザート杏仁も頼んでいるのだから、今日は安い方だ。
なぜ、今日この店に来たのか。
それは、何か栄養のあるものを食べなくては、と思ったからである。
思えば、今日は朝、レーズンパンを2個食べたきり、何にも食べてない。
時刻は、夕方の18時半だ。このままでは、ほとんだ一日何も食べないことになる。
そんな生活をここ一週間くり返している。
このままではよくない。
狂った食生活だし、きちんと食べないと元気も出ない。
そんな調子で、満を持して選ばれたのが、この店なのだ。
だから、お腹いっぱい食べたい。満腹になって店を出たい。
追いチキンをすると、やや多めの設定のこの店では容易いことだったはずだった。
しかし、今日はどういうことか箸が進まない。
ここ一週間しっかりご飯を食べてこなかった影響か、体が食べ物をすんなり受け付けてくれない。
半分食べたところでお腹が痛くなって、トイレを借りることにした。
しばし、休戦だ。
和式便所に洋風便座をとり付けた個性的なトイレだったが、そんなことはどうでもよくて、お腹の調子を整え、席に戻った。
しかし、以降も箸は進まず、全部食べ切るのに、苦戦することとなった。
元々、小食の自分には少し量が多めの店なのだが、いつもは難なくたいらげる。
ところが、今日は思いの外、時間がかかってしまっている。
とはいえ、少しずつ食してはおり、確実に量は減っていってはいる。
その時、店員がこう言った。
「お済でしたら、おぼん頂けますか?」
どっからどう見たら、食べ終わりなのか理解できなかったが、外で別のお客さんが待っているのかと思って振り返ったが、誰かがいる気配はないし、店内でも他に席は空いているので、その感じではなさそうだ。
「あ、まだ食べてます…」
そう答え、目の前のまぜそばに再度集中することにした。
その後も、ペースは速くないが、完食に向けて、箸を進めた。
3分くらいしたところで、再び店員が話しかけてきた。
「温めますか?」
「冷めたら、お粗末な仕上がりになっちゃうので…」
個人的には、冷めた後でもぜんぜん不味くない。
まして、今日のようにお腹の調子がよくない時には、温かいよりも常温の方がお腹がびっくりしないので食べやすい。
もう、あと2割も残っていないのだから、放っておいてくれ。
普段、店員が話しかけてきても嫌に思うことはないが、今日ばかりは嫌な気持ちになった。
そういえば、さっき「待ち合わせかもしれない」って、店員同士が話していたが、それは自分を指していたのだろうか。
まぜそば屋で待ち合わせって、意味わかんねーだろと思ったが、たぶん自分のことではないと思った。
しかし、いずれにしても、嫌な気持ちが少し増したのは言うまでもない。
そういえば、食べてる最中、店員が箸を落として、少し大きな音を立てたのも嫌だった。
それから数分して、完食したのでおぼんをカウンターに上げて店を出た。
店を出て、口の中に青ネギのカスが残っていることに気付いた。
青ネギが口の中に残ったことなんてなかったのに。
そっと、青ネギを吐き捨てた。
最後まで、後味のよくない日だった。
店員は、これまで通った7、8回で見かけたことのない人だった。